マンタス・クヴェダラヴィシウス監督作品『マリウポリ 7日間の記録』

4月15日(土)より 渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開決定!他全国順次ロードショー
廃墟にも朝は訪れる

2022年 カンヌ国際映画祭 ドキュメンタリー特別審査委員賞 受賞

監督マンタス・クヴェダラヴィシウス 製作マンタス・クヴェダラヴィシウス ウジャナ・キム ナディア・トリンチェフ オマール・エルカディ タナシス・カラタノス マーティン・ハンペル 撮影監督マンタス・クヴェダラヴィシウス 編集ドゥニア・シチョフ 助監督ハンナ・ビロブロヴァ【2022年/リトアニア=フランス=ドイツ合作/ロシア語/カラー/ヴィスタサイズ/上映時間:112分/日本語字幕:松下則子 字幕監修:上田洋子】配給:オデッサ・エンタテインメント TOMORROW Films. 配給協力:アーク・フィルムズ 後援:リトアニア共和国大使館
戦禍の惨状とそこに生きる人々をありのままに見つめ、流れていく時間を追体験させるドキュメンタリー
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INTRODUCTION
ウクライナの侵攻から1年。戦禍の惨状をありのままに伝えるドキュメンタリー、緊急公開
ウクライナの侵攻から1年。戦禍の惨状をありのままに伝えるドキュメンタリー、緊急公開
2022年2月24日、ロシアのウクライナ侵攻は全世界に衝撃を与えた―。1991年のウクライナ独立、そして2013年から2014年のマイダン革命に端を発し、ウクライナの東部に位置するドンバス地方では、親ロシア分離派とウクライナ系住民との紛争が絶え間なく続き今日に至っている。
そのウクライナ東部ドンバス地方のマリウポリは、ロシア軍に侵攻、包囲され、砲撃によって街は廃墟と化した。眩しい日差しの下、人っ子一人見当たらない瓦礫の街の風景は、人類すべてが滅亡してしまったかのようだ。夕暮れ時、建物の割れた窓から見える地平線には炎と噴煙が立ち昇り、連射される曳光弾の光跡と共に雷鳴のような砲撃音が轟いている―。
リトアニア出身のマンタス・クヴェダラヴィチウス監督は、2016年にすでにマウリポリを訪れ、同地の人々の日々の営みを記録した『Mariupolis』(日本未公開)を発表し、高い評価を得ていた。本作はその続編ともいうべき作品である。クヴェダラヴィチウス監督は、侵攻間もない3月に現地入りし、破壊を免れた教会に避難している数十人の市民らと生活を共にしながら撮影を開始。だが、数日後の3月30日、同地の親ロシア分離派勢力に拘束され、殺害された。助監督だった監督のフィアンセによって撮影済み素材は確保され、遺体とともに帰国。クヴェダラヴィチウス監督の遺志を継ぎ、製作チームが完成させた作品は、直ちに5月の第75回カンヌ国際映画祭で特別上映され、ドキュメンタリー審査員特別賞を受賞。2022年末にはヨーロッパ映画賞・ドキュメンタリー賞を受賞した。
MARIUPOLIS
ウクライナ東部のドネツク州の南に位置し、アゾフ海に面した港湾都市。ウクライナの穀物積出港として栄えた。また、鉄山や炭田がありイリイチ製鉄所とアゾフスタリ製鉄所によりウクライナ有数の工業都市としても発展した。ロシアの侵攻前の人口は約43万人、ウクライナ系に次ぎ、ロシア系、そして2万人ほどのギリシャ系少数民族である。
2022年3月、ロシア軍に包囲され、産婦人科、小児科を有する病院への爆撃から3月16日には1000人以上もの住人が避難していた劇場への空爆により多くの犠牲者をだした。また同じく住民の避難所となっていた芸術学校への爆撃に続きロシア軍の攻撃は更に激化していった。
ウクライナ兵とウクライナ国家親衛隊に所属する準軍事組織のアゾフ海沿岸のマリウポリを拠点とする通称アゾフ連隊は応戦するも、アゾフスタリ製鉄所に籠城。5月20日、ロシア国防省は「ウクライナ軍兵士531人が降伏して完全にアゾフスタリ製鉄所を解放した」と発表。マリウポリは陥落し、現在もロシア統制下にある。
DIRECTOR
監督:マンタス・クヴェダラヴィチウス
Mantas Kvedaravičius
1976年6月23日 - 2022年3月30日
リトアニア北部ビルジャイ出身。ヴィリニュス大学歴史学部を卒業。専攻は考古学。2001年から2003年にかけてはニューヨーク市立大学大学院センターの文化人類学博士課程に入学し、2007年にはオックスフォード大学を卒業して社会文化人類学の修士号を取得。2013年にはケンブリッジ大学から社会人類学の博士号を取得した。マルチリンガルであり、母国語のリトアニア語の他、英語、ロシア語、スペイン語、ギリシャ語を話す。人類学者から映画監督に転身したクヴェダラヴィチウスは、類まれなヒューマニズムと映像センスで紛争地帯の空気を伝えてきた。
フィンランドとリトアニアの合作で、アキ・カウリスマキがプロデューサーを務めた『Barzakh』(2011年)でドキュメンタリー監督デビューを果たし、ベルリン映画祭ほか各賞を受賞した。2022年3月30日、ウクライナ、マリウポリで死去。
監督は語る
マリウポリについて、何が最も驚くべきことかわかりますか?死がそこにある時でさえ、住民は誰一人として死を恐れていませんでした。死はすでに存在し、誰も無駄な死を望んだことはなかった。人々は命がけでお互いを支え合っていました。爆撃があるにもかかわらず、外でタバコを吹かし、おしゃべりをしていました。お金は残っていないし、人生はあまりにも短く感じられ、人々は今あるものに満足し、自分の限界に挑戦していました。過去も未来も、判断も暗示も、もはや何もありませんでした。それは地獄の中の天国であり、蝶の繊細な羽がどんどん近づいてきて、生の次元で死の臭いがしていました。それは生命の鼓動でした。
フィルモグラフィー/受賞歴
2011年 『Barzakh』
ベルリン国際映画祭:アムネスティ国際映画賞、エキュメニカル審査員賞
リトアニア映画賞:ドキュメンタリー賞
ヴィリニュス(リトアニア)国際映画祭:リトアニア人デビュー作品賞
ベオグラード(セルビア) ドキュメンタリー、短篇映画祭:グランプリ
リュブリャナ(スロベニア)国際映画祭:アムネスティ国際映画賞・作品賞
タリン(エストニア) ブラックナイツ映画祭:大賞、国際批評家連盟賞
2016年 『Mariupolis』
リトアニア映画賞:ドキュメンタリー賞、美術賞
リュブリャナ(スロベニア)国際映画祭:監督賞
2019年 『Partenonas』(劇映画)
2022年 『マリウポリ 7日間の記録』Mariupolis 2
カンヌ国際映画祭 ドキュメンタリー審査員特別賞
ヨーロッパ映画賞 ドキュメンタリー賞
2022年 『Prologos』
※ドキュメンタリー。生前に完成させた作品と思われる。
COMMENT
順不同・敬称略
大変重要な戦争の生々しい記録である。
監督は、あえて遺体などは撮影していない。
しかし、住民の会話、そして何よりずっと鳴り続ける爆撃音が
この映画に映っていない多くの死傷者の姿を想像させる。
しかし、この普通の人々の戦時下での日常をそのまま記録した本作品からは、
ウクライナ国民の愛国心と強い結束力、
また辛い中でもちょっとした幸せを見つけるような強さがひしひしと伝わってくる。
住民の会話の中でインパクトが強かったのは、
ソ連時代は良かった、ウクライナの指導者が良くなるにつれ、
状況が厳しくなるというような内容の話であった。
実は、このような言説は旧ソ連や旧ユーゴスラヴィアなど、あちこちで聞く。
かつて連邦が構成されていた時には、安定した生活があり、民族間の争いはなかったが、連邦解体、
そして民主化は混乱を導くというような考え方だ。
このようなソ連ノスタルジーは、ロシアはもとより、
ウクライナ以外の多くの国で聞かれる。
しかし、このような言説は、プーチン大統領がいみじくも言った
「ソ連解体は20世紀最大の悲劇」という主張に正当性を与えてしまう。
今回、この戦争を見る欧米諸国はロシアに制裁をし、
ウクライナを軍事的、財政的に支援することしかできていないが、
連邦解体後の世界が民主化し、安全が守られ、
幸せになる保障を世界は考えてゆくべきなのではないかと強く感じた。
廣瀬 陽子
慶應義塾大学総合政策学部教授、湘南藤沢メディアセンター所長、KGRI副所長
爆撃の音が鳴り続け、窓からの景色は一変する。
“暮らしてきた街が戦場になる”
という事の残酷さをリアルに映し出す傑作ドキュメンタリー。
目に焼き付けるべし!
赤ペン瀧川
映画プレゼンター
子どもの頃に祖父母から聞いた、瓦礫の道端に死体が並ぶ日常の話。
それがここにある。
絶え間ない爆音、避難所のささやき声、小鳥のさえずり。
しかし全編は意外なほど沈黙に包まれている。
教会の屋根の十字架が、
砲撃から人々を護ろうとする避雷針に見えた。
石坂 健治
東京国際映画祭シニア・プログラマー/日本映画大学教授
戦地と化した住宅地の、筋書きのない日常を圧倒的なリアリティで映し出す。
見ている間、自分がまるで彼の地を訪れているような錯覚に陥る。
何十年も働いて築いた生活が破壊され、その後も命の危機が続く。
その怖さと絶望感と慣れが、肌身に迫ってくる。
こうした日々が7日間ではなく、もう1年も続いているなんて、なんて残酷なことか!
江川 紹子
ジャーナリスト
最後にマリウポリに行ったのは2013年。
港から見たアゾフ海に浮かぶ月に心奪われたのが昨日のことのようです。
2022年、その町はこの世の地獄と化します。
ロシアによるウクライナ侵略、その真実がこの映画にはあります。
岡部 芳彦
ウクライナ研究会会長
戦場だが、戦闘が視野に入ることはない。
ミサイルの音が飛びかうなか、淡々とつづく日常生活。
ニュースでは報道されない、ウクライナ戦争の本当の怖さがここにある。
金子 遊
批評家・多摩美術大学准教授
至近距離での爆発音 画面を見ている我々はとても驚く
遠くの爆発音は絶え間ない 鳥や犬はずっと啼いている
人間達も話しているが ロシアやプーチンへの恨み言はない
この作品のカメラマン兼監督は 去年の3月30日に殺害された
久米 宏
フリーアナウンサー
ロシア軍の激しい攻撃に晒されたマリウポリ。
夜明けごとに空爆の響きが近づいてくる日々の中、
何とか生き残る術を工夫して生を享受する市民たち。
そんな死に直面しながらも逞しく生きる彼らの姿を、
キャメラは一切の説明抜きでひたすら記録することで、
ロシアによる侵略戦争の不条理さを見事に浮き彫りにする。
監督自身がこの撮影直後に親ロシア派勢力に拘束され殺害されたことを知ると、
何ともやるせない感情が込み上げてくる。
村山 匡一郎
映画評論家
破壊された町、絶えることのない砲撃音。
本格侵略戦争勃発直後の町と人々の姿を定点観測した本作の価値は計り知れず、
殉死した監督の遺志を継ぐためにも、
私たちは作品を通じて廃墟と瓦礫に身を置き、
戦争を我が事としなければならない。
矢田部 吉彦
映画祭プログラマー/映画プロデューサー
ウクライナ取材で繰り返し目にした“SAVE  Mariupol”のメッセージ。
この作品の意志があの言葉に重なることを確信しました。
戦場という日常がここにあります。
渡部 陽一
戦場カメラマン